
幼い頃に実父の都合で田舎へ追いやられ、母を早くに亡くし、継母の思惑に利用されるだけの存在―― そんな境遇に転生した中村詩織は、しかし泣きも焦りもしなかった。 彼女は、誰より静かに、そして誠実に生きると決めていた。 泥棒は泣いて土下座し、 「殴るのはもうやめてください、真面目に働きます……!」 不良たちは青ざめて言う。 「勘弁してください、借りた金は全部返しますから!」 そんな彼女が十一年ぶりに中村家の宴へ戻った夜。 客たちは嘲るように囁いた。 「田舎育ちの娘なんて、恥ずかしくて表に出せないわね」 父は冷たく言い放つ。 「お母さんの後ろにいなさい。余計なことは喋るな」 継母は鼻で笑いながら忠告した。 「秦野家の当主、秦野雅彦様は女性に興味がない方よ。あなたが近づくなんてあり得ないわ」 ところが次の瞬間、 詩織はその“興味がないはず”の男に壁際へ追い込まれる。 「詩織!なぜ雅彦様に抱き寄せられているんだ!」 父の叫びが響く。 財界の大物、冷徹で強引――誰もがそう畏れる男。 彼は詩織の行動を計算づくと誤解し、冷たい声で告げた。 「俺は子どもには興味がない」 瞬間、詩織は彼の脛を蹴り飛ばし、淡々と言い返す。 「私だって、頭がおかしい年上の男なんて願い下げよ」 周囲は戦慄した。 ――詩織はもう終わりだ、と。 しかしその数日後。 深夜の配信画面に映ったのは、ノックの音に顔を上げた詩織と、 申し訳なさそうに立つ“あの雅彦”だった。 「悪かった。……頼む、君に興味を持たせてくれ」 「年なんて取ってないし、体力もある。君に合っている」 誰もが絶句した。 ――女性に近づかないはずじゃなかったのか? 薬指の指輪を弄びながら、彼は甘く笑う。 「女に近づかない、とは言った。……ただし、詩織だけは別だ」