第56章 羨ましいですね_2

これは彼の命に関わる最大の秘密であり、外部の人に本当のことを話すことはできず、ただ申し訳なさそうな表情を浮かべるしかなかった。

福沢直隆は黙って彼を見つめ、複雑な表情を浮かべながら、最後に静かに言った。「3年も経たない独学で私の10年以上の指導に匹敵するとは、才能というものは本当に羨ましいものですね。」この言葉を口にすると、彼の身にまとう寂しさがより一層濃くなり、蝋のように黄色い顔色は青灰色を帯び、まるで突然数歳年を取ったかのようだった。しばらくしてからゆっくりと続けた。「私は才能のない人間です。ただの無能な人間で、この人生で何一つ成し遂げられませんでした。北原君のような才能ある人を本当に羨ましく思います。北原君には笑われてしまいましたね。」

彼は話しながらまた酒瓶に手を伸ばそうとしたが、北原秀次が手を伸ばして酒瓶を押さえ、静かに言った。「福沢先生、申し訳ありませんが、もう飲むのはやめてください。」

この福沢直隆は酒好きに見えたが、生まれつき酒に弱いのか、今の体が弱っているのか、それとも既にかなり飲んでいたのか、ビールよりも弱い濁酒でさえ少し酔っているようだった——彼は自分には才能がないと言ったが、少なくとも酒飲みとしても確かに才能がなかった。

福沢直隆は性格が良く、おそらく人生での幾度もの大きな失敗で既に鋭さを失っていたのだろう。飲もうとして北原秀次という若者に止められても怒ることもなく、酒の勢いで暴れることもなく、ただため息をついて北原秀次に酒瓶を脇に寄せさせた。

彼は少し黙った後、背後の本棚から白い封筒を取り出して北原秀次に渡し、静かに言った。「こんな憂鬱な話はもうやめましょう。まっすぐ前を向いて進む北原君のような若者には似合いません。本題に入りましょう...北原君は辞職の挨拶に来たのですよね？これは前に約束した推薦状と、少額の退職金です。大したものではありませんが、どうかお受け取りください。」

北原秀次は少し躊躇してから両手で受け取り、頭を下げて言った。「ありがとうございます、福沢先生。」賢い人との付き合いは時間と労力の節約になる。娘があんなに厄介でなければ、実はここでの仕事は本当に楽しかったのに。

「改めて娘に代わって謝罪させていただきます、北原君。」福沢直隆は正座をして、深々と頭を下げた。