東京、城戸探偵事務所、高成は机に座って数枚の新聞を手に取って見ていた。
伊豆プリンセスホテルに関する報道が出た。以前は一部の小さな新聞社が「眠れる毛利小五郎」や「現代の左文字」について取り上げていただけだったが、この事件を経て、朝日新聞のような影響力のある新聞も取り上げ始め、名探偵の称号がついにメディアに正式に認められた。
少なくとも東京では、人々は彼のことを知らなくても、「現代の左文字」という名前は必ず聞いたことがあるだろう...高成自身はこの呼び名をあまり好んでいないが...
コナンの世界に来てからずいぶん経つ。最初は行き詰まり、家賃も払えない状態から、少しずつ努力を重ね、ようやく報われた。高校を卒業したばかりの身分で東京で生き残っただけでなく、念願の認められた名探偵にもなれた。
以前の悪評や否定的な報道とは違い、今回は名探偵としての称賛に包まれている。まだ一部の週刊誌が過去の黒歴史を取り上げているものの、もはや大きな波紋は起こしていない。
また涙が止まらなくなった高成だが、今回は体が非常に軽くなった気がした。まるで今になってようやく、この世界の城戸高成になれたかのように。
「名探偵だけじゃない、いつか世界一の探偵になってみせる!」
事務所の中で、高成は拳を握りしめ、慎重に朝日新聞を切り抜き集に収めた。
今回は朝日新聞に掲載されたことよりも嬉しいことがあった。最後の1分間名探偵モードの発動は、システムが出す事件でなくても、十分な努力をすれば発動できる可能性があることを意味していた。
高成は自分と本物の名探偵との違いを知っていた。彼に最も欠けているのは思考能力だが、1分間モードは短時間で思考能力を極限まで引き上げることができ、それが他の名探偵と互角に、時には凌駕できる唯一の武器だった。
思考能力さえ補えば、あとは名探偵に必要な膨大な知識量だけ。前回システムが列挙した様々な学問やスキルを含めて。
最近はピアノを少し覚えただけで、コンピューターもほんの少しわかる程度だが、前者だけでも月影島の事件で大いに役立った。
...
一週間以上が過ぎ、この日、高成は昼過ぎまで寝て、急いで鳥の巣のような髪を整え、いつものようにテレビをつけたり新聞を読んだりせず、新しいスーツに着替えてネクタイを締めた。
「現代の左文字」の名が上がるにつれ、城戸探偵社は毛利探偵事務所と同様に急速に注目を集めるようになった。唯一の弱点は毛利よりもずっと若いということで、彼があまり好まない不倫調査の依頼さえ少なくなっていた。
一方で、評価が上がったことで、小さな依頼は他の人には手が出なくなってきており、最近はかなり暇になっていた。
しかし、毛利小五郎も似たような状況で、常に依頼があるわけではなかった。
探偵というのはそういうもので、一般的な探偵事務所の年収は約500万円程度、名探偵となればさらに高くなる。前回の浅井成実の依頼では50万円もの報酬があり、一件でかなり余裕のある生活ができる。しかも彼は家賃の心配もない。あの3階建ての建物は自分の物だから、普段から酒を飲んだり競馬に行ったりと、だらしない大叔の様子も納得できる。
もちろん、50万円の依頼料は珍しく、日本では30歳前後のアルバイト族の平均月収は30万円程度で、1-2ヶ月分の給料を探偵に依頼する人は少ない。通常は10万円程度で、少ないものは1-2万円、時には1万円未満もある。
高成は自分の現在の収入を計算してみた。名声の値を換算しなければ、頑張れば月50万円は稼げるはずだ。時々大きな依頼を受ければさらに増える可能性もある。
支出に関しては、毛利小五郎のように家族がいるわけでもなく、酒も飲まず競馬もしない。この数日間で遠出したのは数回だけで、唯一の旅行は伊豆プリンセスホテルへの休暇だった。そう考えると、大きな支出は家賃と日常生活費だけで、様々な出費を合わせても十数万円程度だ。
税金を差し引いても、通常月の純収入は20万から30万円の間になるはずで、同年代の人々をはるかに上回っている。結局のところ、今の同級生のほとんどは大学に通っているのだから。
しかし、お金持ちと比べるとまだまだ遠く、少なくとも下階の月額30万円の店舗さえ借りることができない。
1000万円の依頼でもあればいいのに...
高成は鏡の前でネクタイを調整しながら、伊豆プリンセスホテルで出会った金城玄一郎のことを思い出した。あの老人は冗談で言ったものの、1000万円はこういった金持ちにとってはたいしたことではない。
「今なら間に合うかな?」準備を終えた高成は腕時計を確認した。
今日は帝丹大学祭の日で、以前の同級生から特別に話劇の出演を頼まれていた。自分もそろそろイメージに気を使うべきだと思っていた。
最後にもう一度鏡の中の自分を見つめた。スーツを着ると随分大人っぽく見え、職業人としての雰囲気が出ている。以前のような高校生らしい印象はない。
「OK、パーフェクト!」
...
米花のあるアパートのリビングルームで、男女が熱烈なキスを交わしていたが、しばらくすると女性が突然止め、男性の驚いた目の前で横に退いた。
「やっぱりダメ」女性は罪悪感でいっぱいになり、苦しそうに首を振った。「もうお姉さんを裏切れない」
「桃子...」
「坪内さん、あなたは姉の夫なんです...もう終わりにしましょう。カメラも返します」
女性はフィルムカメラを取り出してテーブルに置き、複雑な心境でレストランに入り、黙って花瓶の花を手入れし始めた。背後の男性の様子の変化に全く気付いていなかった。
「他に男ができたんだろう?」
「そんなはずないでしょう」
「絶対そうに違いない」坪内は情人をじっと見つめ、黙って両手にビニール袋を被せた。
「違うって言ってるでしょう、あまり無理しないで...」女性は深く息を吸い、花瓶を持って離れようとした。イライラしながら振り返って坪内に出て行くよう言おうとしたが、相手は突然飛びかかってきて首を絞めた。
「やめて!何するの?」
女性は恐怖に駆られて逃げようとしたが、坪内は冷たい目をして、まるで別人のように彼女を追いかけて地面に押さえつけた。
女性の苦しみを無視して、坪内は歪んだ表情で全力で首を絞めた。
「ゴホッ、ゴホッ!」
わずかな抵抗の後、女性は彼の手の中で動きを止め、腕が力なく地面に落ちた。
部屋は再び静かになり、坪内は立ち上がって、散らばった花束と女性が最期の抵抗で引き千切ったカーテンを見て、深いため息をついた後、急いでリビングに戻り、ビニール袋を付けた両手で部屋を荒らし回り、強盗が侵入して強奪したように見せかけた。
その時、彼の携帯電話が突然鳴った。
「はい」坪内は呼吸を整えながら電話に出た。
「先生ですか?」電話の向こうから声が聞こえた。「今からモデルの相田さんの家に向かいます...」
「え?」坪内の表情が変わった。「どうして?」
「えっ、忘れたんですか?今日の昼に撮影が...」
...
帝丹大学近く、高成はタクシーに乗っている時、突然目暮警部から電話がかかってきた。
「城戸君」目暮が呼びかけた。「ちょっと来てもらえないかな?」
「え?」
「実は先ほど、女性モデルが自宅のアパートで殺害されたんだ。強盗殺人事件のように見えるんだが、君に見てもらいたくて...本当は毛利君に頼もうと思ったんだが、あいにく不在でね...」
「目暮警部」高成は顔をしかめ、目の前に迫る帝丹大学を半目で見ながら、「実は今、用事が...」
冗談じゃない、もう帝丹大学に着くところなのに、もしかしたら可愛い先輩が待っているかもしれないのに、どうして今この時に知らない場所の強盗殺人事件現場に行かなきゃいけないんだ?しかも警察は依頼料も払わないし...
「ディン!」突然システム画面が現れ、女性モデル殺害事件の発生情報を表示した。
「でも、目暮警部からの依頼なら、私の用事は後回しにしても構いません」高成は振り返って続けて尋ねた。「女性モデルの件ですよね?現場はどこですか?」