幕はなく、スピーチもなく、ただ一枚の木板が舞台と控え室を仕切るだけ。初めての舞台で、こんなにも質素な舞台で、初演となる劇を皆で披露する。そんなのは彼らの人生で初めての経験だ。
「物語はある王国の王都で始まります。外城区に、美しくて優しい女の子が一人います……」
ナレーションが響き始めると、アイリンはゆっくりと舞台の中心へ歩いて行く。汚れた灰色のローブを着て、髪はぐちゃぐちゃにまとめて頭上に盛り上げ、顔にも黒ずみを施していた。
手に持ったほうきを振りながら、彼女は床を丁寧に掃除し、時折腰をかがめてローブの一角で頑固な汚れをこすっていた。
何日間ものリハーサルを経て、物語の進行はアイリンにはすっかり身についていた。この物語は簡単だ。母親を失った庶民の少女が、家庭内での虐待に耐えた後、優しさから魔女を助け、魔女から魔力を授けてもらって王子の舞踏会に参加し、王子と一目惚れする。しかし、魔力には時間制限があり、彼女は舞踏会から急ぎ去らなければならず、パニックの中でガラスの靴一つを置き忘れてしまう。その爽やかな娘を探して王子は全市を探し回り、最終的に外城区で彼女を見つけ、二人は幸せに暮らすというものだ。
ストーリーは簡単でわかりやすく、平民の少女が魔女の助けを得ることで王子の心を射止めるという王女と王子の恋愛を描いた常識を一新するものだ。主役であるシンデレラが、虐待に耐えながら勇気を奮って反抗する姿も特に俳優が演じるべきポイントとされている。
しかし、アイリンはまさかの、メイが主役の座を譲ってくれるとは思いもしなかった。
ただ西境星と並んで舞台に立つだけで、彼女はとても幸せだった。しかも要塞劇場の看板女優として、メイは自信とプライドを持って任意の劇で主役を演じることができる。しかし『シンデレラ』では、彼女は主役の異母姉妹を演じることを自ら志願した。
アイリンはこれを信じられず、相手が新人俳優の舞台であると何度も強調するまで、シンデレラ役を引き受けることはなかった。
その後のリハーサルでは、彼女は力を振り絞り、シーンごとに何度も練習を重ね、キャンドルが消えた後も同じベッドで寝ているメイに演技のコツを教えてもらうなど、完璧なパフォーマンスを披露するために努力を惜しまなかった。
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