クラインは数歩前進すると、占いに来た客が見えた。黒のスーツ、手には金の象嵌を施した木製ステッキ、頭には低めシルクハットを被り、その下から金色の短髪がのぞいている。鼻先はやや湾曲しており、鷲の嘴のようだ。
アナの婚約者…あの恐ろしく苦しい経験をしたジョイス・マイヤーか…「夢占い」ですでに彼に会っていたクラインはすぐに微笑んで声をかけた。
「こんにちは、マイヤーさん。」
「こんにちは、モレッティさん。」ジョイスはシルクハットを脱ぐと、腰をかがめてお辞儀をした。「先日は占っていただき、ありがとうございました。アナは口を閉じる間もないほど貴方のお力を称賛していますよ。」
クラインはハハッと笑った。
「僕は何もしていません。感謝すべきは貴方ご自身です。粘り強さと幸福への希望がなかったら、あの災難に打ち勝てなかったでしょう。」
挨拶のあと、思わず心の中で突っ込む。
どうせおべっかだろう?
「正直、生きて戻ってこられたなんて夢のようですよ。自分があの一連の災難を乗り切れたなんて、未だに信じられません。」ジョイスは感慨深そうに頭を振った。
そしてクラインの言葉を待たず、興味ありげに尋ねた。
「先ほど一目見ただけで私が誰なのか気づいてらっしゃいましたよね。私の鼻が特徴的だからでしょうか。それとも、占いで私が来ると分かっておられたとか?」
「貴方についての詳しい資料がありますから、占い師にとってはそれで十分なのです。」クラインはわざと曖昧に答え、霊能詐欺師のように振る舞った。
ジョイスは面を食らい、十数秒ほど間を置いてから笑みを浮かべて言った。
「モレッティさん、占っていただきたい。」
そう言った直後、彼は悟った。
クライン・モレッティ氏は占者ではなく、占い師と名乗っているんだ。
「承知しました。では黄水晶の間へ。」クラインはこちらへと手真似した。
そして、なぜか思った。黒いローブを着て、なるべく多くを語らず、神秘的な占い師になりきるべきだと。
占い部屋に入ると、ジョイス・マイヤーは自ら木製ドアの鍵を閉め、中を見回した。その隙にクラインはそっと眉間を2回ひねって、霊視を発動させた。
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