ティンゲン市北区、ホールズ街の13番地、2階に構える占い俱楽部。
クラインは接客を担当するあの美しい女性と、もう一度顔を合わせた。
彼女は相変わらず淡い褐色の髪をまとめ上げ、優雅で成熟した印象を与えている。外見だけでは彼女の年齢を詳しく判別することはできなかった。
「いらっしゃいませ。本日、グラシスさんは留守にしております、他の占い師をご用意させていただいてもよろしいですか?」この美しい女性は笑みを浮かべながら言った。
脱いだばかりのシルクハットを被りなおしたクラインは、この言葉を聞くと、驚いた様子で尋ねた。
「私を覚えていらっしゃるのですか?」
五日も前のことなのに!
褐色髪の女性は含み笑いながら言った。
「初めてグラシスさんに依頼してくださったお客様、現在に至るまで唯一のお客様です。印象に残らないわけがないでしょう。」
目先の小さな利益に飛びついて、大損をした印象がか? クラインは心の中でそう突っ込みながらも、しばらく考え込んでから尋ねた。
「グラシスさんが最後にいらっしゃったのは、いつのことですか?」
褐色髪の女性は彼を一目見ると、考えているような様子で答えた。
「実を言うと、我々は会員さまのいらっしゃる間隔について、正確には把握できないのです。みなさんご自身の意思や、色々ご都合もありますので。ああ、でもあの日、あなたに占いをした後、グラシスさんは一度も俱楽部に来ていないはずですよ。」
彼に幸運が、女神の加護があらんことを……クラインは祈りの言葉を唱えると、それ以上は聞かず、笑って言った。
「今日は占いではなく、俱楽部に加入しに来たんです。」
「そうなのですか? それは光栄です。」褐色髪の女性は驚喜の表情を浮かべた。「最初の入会の際は5ポンド、以降は毎年1ポンドの会費をいただいております。詳しい内容については、再度の説明は不要でしょう。」
クラインが内ポケットから受け取ってきたばかりの5ポンド紙幣を取り出し、ヘンリー・アウグストゥス1世の肖像が印刷されている紙幣が自分から遠ざかっていくのを見届けた。
褐色髪の女性は偽造防止の透かしを厳重に確認すると紙幣をしまい込み、一枚の用紙を取り出して、クラインに手渡した。
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