飾りの妻のはずでした
婚前、彼は言い放った。
「俺に惚れるな。お前はただの飾りだ」
婚後、同じ唇がこう囁く。
「礼奈……こっちおいで、ぎゅーって」
須藤礼奈(すどう れな)は襟元を掴んで部屋を飛び出す――飾りって言ったの、誰!?
名門・須藤グループの令嬢として育った礼奈の人生は、ある夜を境に崩れ落ちた。婚約者は親友に寝取られ、父は病に倒れ、莫大な負債が一家を押し潰す。すべてを失った彼女が、父の命を救うため最後に縋ったのは――十年間ひそかに想い続けてきた相手、東京の若き天才経営者・石川蓮理(いしかわ れんり)。
冷酷。孤高。非情。
触れることすら許されない、財界の氷の帝王。
「助ける理由がない」と突き放した彼が差し出したのは、まさかの結婚契約書。
条件はひとつ、「互いに干渉しない。お前は飾りだ」
……そう言ったくせに。
触れる手はどうしてこんなに熱くて、あの冷たい瞳はどうしてわたしにだけ甘いの。
世界中に鉄の仮面しか見せない男が、たったひとりの「飾りの妻」だけを、骨の髄まで甘やかし、命がけで守り、誰にも触れさせない。
礼奈は腰をさすりながら歯ぎしりする。
嘘。全部、嘘でしょ……!?
この溺愛がどれだけキツいか、世界中の誰もわかってないっ!
冉火火 · 都市