少女はポケットから一枚の写真を取り出し、向かってくる中年男性に手を振って言った。「あなた……そう、あなたです。ちょっと来てください。お姉さん、聞きたいことがあるの」
眼鏡をかけた中年男性は少し戸惑ったが、相手が子供で、しかも夜だったので、道に迷ったのかもしれないと思い、深く考えずに興味深そうに尋ねた。「お嬢ちゃん、道に迷ったの?」
少女は首を振り、写真の人物を指さして尋ねた。「この写真の人を見かけたことありますか?」
もし葉辰がここにいたら、写真の青年が自分だと気づいただろう!
中年男性は写真の男性を一目見て、首を振りながら言った。「申し訳ありませんが、私は地元の人間ではないので、他の人に聞いてみてください」
少女の瞳に失望の色が浮かんだが、突然、何かを察知したように、その姿が一瞬にして残像となって消えた!
中年男性の目の前から消え去ったのだ!
中年男性は強い風が吹き抜けるのを感じただけで、目の前の少女が突然消えてしまった!
周りを見回しても、影すら見えない!
中年男性は眼鏡を外し、目をこすりながら言った。「幻覚でも見たのかな?最近の残業が効いているのかもしれない……」
……
翌朝。
葉辰は目を覚ますと、無意識に隣の夏若雪を抱こうとした。
しかし、隣は空っぽだった。
服を着て、簡単に身支度を整え、階下に降りると、夏若雪と孫怡がすでに朝食を食べていた。
孫怡は葉辰を横目で見ながら言った。「あんた、よく寝てたわね。もう9時近いのよ。普段はあんなに早起きなのに、今日は豚みたいに寝てて。何度も起こしたのに」
「まあいいわ。今日は最後の準備があるの。私と沈海華はこの発表会をとても重視してるから、私たちがこんなに頑張ってるんだから、裏の大ボスのあんたは年末ボーナスを多めにくれるんでしょ?」孫怡は冗談めかして言った。
葉辰は頷いて言った。「当然さ。天正グループ全体をあげてもいい」
孫怡は葉辰を横目で見ながら、すぐにバッグを手に取り、出かける準備を始めた。「11時から発表会よ。この発表会が終われば、数日は休めるはず。その時、あなたたちに何か美味しいものを作ってあげるわ」
そう言うと、孫怡は別荘から姿を消した。
食堂には夏若雪と葉辰だけが残された。
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