第327章 理由
「ティリー様！」
ナイチンゲールの案内で領主城に入ると、第五王女は最初に出迎えたのがシルヴィーだとは思わなかった。彼女は嬉しそうに駆け寄り、お辞儀も忘れて屈んで自分を抱きしめた。「どうしていらっしゃったんですか？まだ秋なのに！」
「冬とあまり変わらないわ」とティリーは笑って言った。「他の皆は？」
「ロタスは避難民の住宅を建設中で、イブリンとキャンドルライトは今頃産業地区にいるはずです。ハニーは裏庭で使者の訓練をしています」とシルヴィーは指を折りながら数えた。「殿下はもう皆に知らせを出しました」
「安心して、すぐに会えるはずだ」シルヴィーの後ろから、どこか聞き覚えのある、でも何か違和感のある声が聞こえた。
ティリーが顔を上げると、灰色の髪の男性が自分に微笑みかけていた。その容姿は記憶の中のものとあまり変わっていなかったが、笑顔や表情は以前とは全く異なる印象だった。
「辺境町へようこそ、私の愛しい妹よ」
……
ティリーの心の中で思いが渦巻いていた。彼女には多くの疑問が口をついて出そうになったが、表情は平静を保ったまま、ローラン・ウェンブルトンについて書斎のような部屋に入った。
「どうぞ座って」と彼は温かい紅茶を注ぎ、彼女に差し出した。「一年ぶりの再会だね。君にも私にも話したいことがたくさんあるだろう……でも急ぐ必要はない」と彼は窓の外の雪景色を見やった。「今年の冬はまだまだ長いからね」
彼女はコップを握りしめたが、言葉を返さずにスクエアテーブルに座り、静かに第四王子を観察した。
この出だしだけでも、ティリーには記憶にある兄とは思えなかった――彼は臆病で弱々しく、外見は強そうでも内面は弱く、最も重要なのは逃げることを習慣としており、正面から物事に向き合おうとしなかった。目の前のこのローラン・ウェンブルトンは全く異なっていた。彼は会話の主導権を握ろうとしており、口調は穏やかで優しいものの、完全に上位者としての態度だった。
「ナイチンゲール」とローランは首を傾げた。
「しかし殿下……」部屋の中から案内役の魔女の声が聞こえた。
「大丈夫だ、彼女は私の妹だから」
「わかりました」ナイチンゲールは少し黙った後、姿を現して部屋を出て行った。
「さて、私たち二人きりになったね」と彼は微笑んでスクエアテーブルに戻った。
ティリーは少し沈黙した後、「あなたは……一体誰なの？」と尋ねた。
彼女は相手が躊躇したり、謎めいた態度を取ったりすると思っていたが、予想に反して彼はすぐに答えた。「私は君の兄、ローラン・ウェンブルトン、灰色城第四王子だ」その後彼は笑いながら、「確かに大きく変わったけれど、ゆっくり説明させてほしい」
ティリーは突然、彼が手紙に書いていた言葉を思い出した――「何が私にこの決断をさせ、何が私を以前のように全てに無関心でいられなくさせたのか、これらの些細なことは機会があればゆっくりと話そう」おそらくこの一文が、彼女にこの辺鄙な町を訪れる決心をさせたのだろう。
彼女は思わず口角を上げた。「しっかり聞かせてもらうわ」
物語全体は複雑ではなかったが、非常に興味深いものだった。ローランが辺境町に分封されてからの全ての経験を聞き終えた時、ティリーは自分のティーカップが空になっていることに気付いた。彼女は長く息を吐き、この話をもう一度頭の中で整理した。簡単に言えば、アンナという魔女がローランの心を動かし、救われた魔女を通じて、彼は教会の邪悪さと民衆への扇動を目の当たりにした。その後、ジャシアの暗殺は更に彼に王族の権力の下にある闇を感じさせ、片隅に隠れていても影のように付きまとう悪意から逃れられないことを悟り、ついに全てを変えようと決意したのだ。
この部分は少しドラマチックに聞こえたが、一応説明として成り立っていた。しかし問題は、蒸気機関や鉄砲といった奇妙な知識で、これらは一時の悟りで得られるものではなかった。
「つまり、これら全ての最終的な要因は、あなたが言う突然頭の中に現れた記憶なの？」とティリーは尋ねた。
「その通りだ」とローランは真剣に答えた。「信じがたいことは分かっている。でも、これが事実なんだ……三女の配下による暗殺を運良く逃れた後、気を失っていた状態から目覚めた時に、これらのことが分かるようになっていた。アンナとの出会いがきっかけだとすれば、記憶の中の内容は私が現状を変えたいと思う助けとなったんだ」
魔女か？とティリーは密かに考えた。置き換えや制御の可能性は低い、シルヴィーがそれを証明していた――共助会の魔女の能力は神秘的なものではなく、彼女たちは毎日専門的な訓練を行っており、誰もこの二つの分野に属する能力を持っていなかった。わずかでも近いものさえなかった。
唯一の可能性は憑依で、彼女はそのような能力、つまり体を乗っ取って相手の思考を得る能力が存在する可能性を排除しなかった。しかしこの推測も薄弱だった。ローラン・ウェンブルトンがどれほど父親に期待されていなかったとしても、紛れもなく灰色城の王子だった。神罰の石は彼にとって珍しいものではなく、常に騎士や近衛に守られていたため、隠密能力のない魔女が簡単に近づくことは不可能だった。
さらに、仮にそのような魔女がいたとしても、どうしてこれほど並外れた知識を持っているのだろうか？彼女は幼い頃に王宮の図書館を隅々まで読み漁り、白髪まじりの博学な宮廷教師たちから教えを受けたが、彼らでさえ、蒸気やスノーパウダーで畜力や剣に取って代わるような知識については一度も語ったことがなかった。
そう考えると、奇妙な知識と奇妙な経験は、どこか釣り合いが取れているようにも思えた。
「どうやって証明するの？あなたがローラン・ウェンブルトンで、追加された記憶の部分ではないということを」
ティリーはこの質問が非常に失礼だということを知っていた。以前の第四王子なら、必ず激怒してテーブルをひっくり返して出て行っただろう。
「なぜなら私はまだ宮廷で起きたことを全て覚えているからだ」相手の口調は相変わらず穏やかだった。「ある人の本質を見分けるのは、その人だけの独特な記憶にあると思う。もし魔女が君と全く同じ姿になったとしても、記憶が違えば、本質的には別人だ。私は多くの奇妙な記憶を得たが、それらの記憶がどこから来たのかは覚えていない。しかし、ガラスの破片の上で泣いていた君の表情は、今でもはっきりと覚えている。だから、これが証明になる」彼は一瞬止まった。「もちろん……ずっと謝罪する機会がなかった。今でも遅くないことを願っている」
ティリーは黙ったまま、目の前のローランを見つめた。彼は清潔な身なりで、誠実な態度で、まるで疑う余地のない事実を語っているかのようだった。明らかに、どの点から見ても、以前の放蕩王子よりもずっと良くなっていた。しかし彼女の心にはまだ疑念が残っていた。
「本当に……信じられないわ」
「それは当然だ」ローランは彼女の考えを見透かしたかのように言った。「多くのことは、実際に経験するまでは信じられないものだ。私も、私の妹が魔女として覚醒し、王宮の全ての人々から隠し通せたとは思わなかった。でも……最初に言ったように、今年の冬はまだまだ長い。私たちはゆっくりと理解を深めていけばいい」
これが今のところ最適な解決方法だろう、ティリーは頷いた。「では、これからの数ヶ月……よろしくお願いします」
「任せてくれ。きっとここが気に入るはずだ」
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