第168章 追憶
「出て行け！汚らわしい乞食め！」
誰かが彼女を強く押したが、彼女はびくともせず、むしろ相手が二歩よろめいて後退するのを見ていた。
相手の顔から傲慢な表情が一瞬で消え、彼女を睨みつけた後、尻尾を巻いて逃げ去った。
彼女は動じることなく、群衆の中を進み続けた。この破れた服を着た女性を見て、ほとんどの人々は眉をひそめて避けた。そうして、彼女はゆっくりと灰色城王都の内城門まで移動した。
ここはすでに人で溢れていた。内城区には伝統的な意味での城壁や城門はなかったが、人々は木の棒と花輪で作られた象徴的な大門を建てていた。門の両側には全身鎧を着た武士たちが整然と並び、精巧な鎧は日光に反射して眩い輝きを放っていた。肩の部分には飛び立とうとする鷹の形をした空洞の鎧、胸には虹彩の花の装飾が掛けられ、武士たちのハンサムな容貌と相まって、富裕層の娘たちを歓声を上げさせていた。
武士たちの背後には一様に赤い絨毯のマントが地面まで垂れ下がり、遠くから見ると赤い壁のように見えた。まさにこれらのハンサムで威厳のある武士たちが群衆を分断し、大門の後ろに数丈の幅の道を空けていた。
道の両側には旗が翻り、多くの細長い金色の装飾旗が旗竿の頂から垂れ下がり、荘厳な雰囲気を醸し出していた。旗には様々な模様が刺繍されており、その中で最も多かったのは高塔と槍だった。彼女はこの模様が灰色城王家を表し、今日の式典の主催者であることを知っていた。
今日は第五王女ティリー・ウィンブルトンの成人式だった。
一週間前から、このことは大々的に宣伝され、街中の誰もが知っていた。灰色城の地元貴族だけでなく、他の王国からの使節団も大勢来ていた。彼らは贈り物と婚約を携えて、第五王女の好意を得ようと望んでいた。
教会も主教を一人派遣してこの大典を執り行うことになっており、式典は街の中心にある夜明けの広場で行われる予定だった。その時、王家は肉粥と濃いスープを配給することになっており、これもまたこれほど多くの群衆を引き寄せた理由だった。
しかし彼女は食べ物のために来たのではなかった。
彼女の標的は大主教だった。
きっと王都の衆人環視の中で大主教を殺せば、教会の面目は丸つぶれで、威厳も大きく損なわれるだろう。この甘美な復讐の味わいは、いつも彼女を興奮させずにはいられなかった。彼女は胸元に触れた。そこには奪ってきたダガーが隠されていた。品質は劣悪だが、一人の凡人を殺すには十分だった。
そのとき、群衆の中から突然轟くような歓声が上がり、彼女の思考を中断させた。彼女が内城区の方を見ると、王国騎士団が整然と隊列を組んでゆっくりと進んでくるところだった。先頭を行く騎士たちは輝くばかりの装いで、背後には赤地に金縁のマントを翻し、まるで燃え上がる炎のようだった。
騎士たちの後ろには四頭の駿馬が並んで引く馬車があり、車壁には灰色城王家の紋章が彫られ、車輪と車台は金色に塗られていた。車の上には真っ赤な三角旗が翻り、金糸の刺繍が施された絹織物が車両の四隅に掛けられ、一目見ただけで、行列全体が移動する金色の海のようだった。
人々は車列と共に夜明けの広場へと向かい、彼女も群衆に紛れて広場の外周に入った——内側は兵士によって隔離されており、貴族だけが式典を間近で見ることができた。彼女は計算してみた。自分が突っ込むには数息の時間しかかからない。大主教が広場に上がりさえすれば、自分の手から逃げることはできないだろう。
王家の子女たちが次々と馬車から降りた。中央の式台にゆっくりと上がっていったのは、おそらくウェンブルトン三世の五人の子供たちだった。
その中で、彼女は第五王女ティリー・ウィンブルトンを見つけた。
疑いもなく、第五王女は今日の主役だった——彼女の瞳からは宝石のように透明で生き生きとした光が漏れていた。シンプルな片寄せの前髪に爽やかな灰色の長髪、装飾品は一切つけていなかった。容姿は兄弟姉妹の中でも特に際立っていた。着ている衣装の模様も複雑ではなく、彼女の雰囲気と完璧に調和していた。そして最も驚くべきことに、彼女は幾重もの群衆を越えて、直接自分に視線を向けてきた。そして、挨拶するかのように軽く頷き、口元に笑みを浮かべた。
これは決して錯覚ではなかった。一瞬のうちに、彼女も同じ感覚を覚えた——この感覚は非常に親密で、まるで長年の知己のような、温かく甘美なものだった。それは血縁や身分、地位からくる共感ではなく、魔力の共鳴からくるものだった。
知らず知らずのうちに、彼女は固く握っていたナイフハンドルを放し、静かに台上の女性を見つめていた。
式典が終わった後、二人の護衛が彼女を見つけ、王宮に案内しようとした。
拒否の意思さえあれば、護衛たちが彼女を止めることはできなかっただろう。しかし彼女は何も問わず、二人について内城へ入り、最後は脇道から豪華絢爛な宮殿に入った。
宮殿の密室で、彼女は第五王女の前に立った。
「……なるほど」
「なんて不幸な物語なの、あなたがこうして灰色城に流れ着いたのね」
「心配しないで、もう放浪する必要はないわ。私と一緒にいてちょうだい」
「私があなたをきちんとメイクアップしてあげるわ。きっと誰もあなたの素性は分からないはずよ」
「私が調べたところでは、修道院は大火事で焼け落ち、子供たちは皆行方不明になったそうよ。建物は廃墟と灰燼だけが残っているわ」
「あなた、名前はあるの？」
「それなら、アッシュと呼ぶことにしましょう」
……
アッシュは目を開けた。最初に目に入ったのは、マクシーの顔だった。
相手はまばたきをした後、すぐに抱きついてきた。「やっと目を覚ましたグ！」
彼女は指を動かしてみたが、予想していた脱力感やしびれは全くなく、腰にも激痛は走らなかった。
「私はどのくらい気を失っていたの？」
「半日よ」とマクシーは言った。「ナナワさんが言うには、治療が終われば、いつでも起こせるって。でも、この時は体が疲れているから、自然に休ませた方が良くて、目が覚めたら体力の回復も良くなるって」
アッシュはマクシーの頭を軽く叩き、ゆっくりとベッドから起き上がり、服をめくると、腹部は無傷だった。大きな傷跡は悪夢のように、目覚めると共に消え去っていた。
「彼女は...どうやって私を治療したの？」
「知らない方がいいと思うわ」マクシーは口を尖らせ、アッシュの固い表情を見てから続けた。「彼女たちはあなたの散らばった...えっと、部分を集めて、お腹に戻して、それからナナワさんが魔力でそれらを元通りにしたの——ライトニングの話では、集められた部分が多いほど、治療も早くなるんですって。もし手足が完全に失われていたら、彼女には新しく生やすことはできないそうよ」
アッシュは鳥肌が立つのを感じた。「じゃあ、付着していた土や草も...」
「傷が治ると汚れは外に出てきたわ。彼女の能力は何が有用な部分で、何が無用なのかを見分けられるみたい」
彼女は安堵のため息をつき、ベッドから降りて、体の力を試してみた。結果は、ナナワの言った通りで、目覚めた後、虚弱感どころか、以前より力強さを感じた。
アッシュは黒いローブを着て、窓の外の空を見やり、ドアの方へ歩き出した。
「どこへ行くの？」マクシーが尋ねた。
「王子殿下に会いに」彼女は振り返ることなく言った。