鄧淵嘯は項承東が現れるのを見て、急いで手を伸ばし、助けを求めて言った。「項老、助けてください。この若造が薬王谷で騒ぎを起こしているんです...」
言葉が終わらないうちに、葉辰が口を開いた。「さっき警告したはずだ。お前が聞かなかっただけだ」
言い終わると、葉辰は鄧淵嘯の体を踏みつけた。
骨の砕ける音が響いた。
まるですべてが粉々になったかのようだった。
「これからお前は完全な廃人だ!」
この光景を見て、誰もが項承東が怒り出すと思った。
なにしろ葉辰は薬王谷で手を出したのだ。これは虎の威を借りるようなものだ!
項承東の性格からすれば、葉辰と朱雅は必ず追い出されるはずだ!
しかし、誰も予想しなかったことが起きた。項承東は鄧淵嘯を一瞥すると、側近に命じた。「この者を追い出せ。今後、閩南鄧家と華夏薬盟との関係は一切断つ!華夏薬盟は閩南鄧家にいかなる医術支援も提供しない!」
なんだって!
この言葉に、皆が呆然とした!
項承東は葉辰を処罰するどころか、逆に閩南鄧家との関係を断ち切った!
さらには鄧淵嘯を薬王谷から追放したのだ!
まるで葉辰に好意を示しているかのようだった!
そしてこの時、当事者である葉辰と朱雅はすでに静かに去っていた!
人々は二人の遠ざかる背中を見つめ、心の底から震え上がった。
彼らは同時に一つの強い思いを抱いた:
閻魔様を怒らせても、葉辰は怒らせるな!
……
薬王谷の外。
朱雅は未だ動揺を隠せず車に乗り込み、息を荒げていた。
彼女は後ろの葉辰を見つめ、なぜか頬が赤らんでいた。
英雄も美人には弱いというが、美人も英雄には弱いものだ!
薬王谷での出来事だけでも、葉辰の姿は朱雅の心の中で無限に高まっていた!
彼女は赤い唇を軽く噛み、後部座席のこの男を独占したい衝動に駆られた!
彼女は心の中で悔やんだ。夏若雪より先に葉辰と出会えていたらよかったのに。
もしかしたら、あの時もう少し積極的だったら、葉辰の側にいる女性は自分だったかもしれない。
しかし、この世界にもしもはない!
彼女にはよくわかっていた。今回薬王谷を離れ、市内に戻ってしまえば、もう葉辰と二人きりになることは不可能だろう。
先ほど葉辰が彼女を助けたのも、完全に友人としての立場からであり、彼女に気があるわけではない。
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