第1章 消えろ！ 人を殺したくない！

江城新幹線駅、夏の暑い日。

人混みの中に痩せた影が現れた。

その影の主は若者で、Tシャツを着て、キャップを被り、キャンバスバッグを斜めがけしていた。

とても普通だった。

彼は身分証明書を手に持っており、そこには葉辰という名前が記されていた。

「5年か」

葉辰は新幹線駅の外へ向かって歩き出したが、江城で一番高いビルが目の前に現れた時、彼の足は突然止まった。

彼は頭を上げ、鷹のように鋭い眼差しで、つぶやいた：

「江城！俺、葉辰がついに戻ってきた！5年前、雲湖山荘であの宴会で、葉家は全滅し、俺一人だけが生き延びた。母が最後の力を振り絞って俺を東銭湖に突き落としてくれなければ、おそらく江城に葉家は存在しなくなっていただろう！」

そう言うと、葉辰は両手を強く握りしめ、強大な殺気が四方八方に広がっていった。周りの観光客たちは、まるで見えない手に喉を締め付けられているような感覚に襲われた！

一瞬にして、まるで地獄のようだった！

「鄭景明！竜様！そして両親が殺されるのを冷ややかに見ていた奴ら！お前たちは俺、葉辰がまだ生きているとは思ってもいないだろう！」

「むしろお前たちに感謝しなければならないかもしれない。お前たちのおかげで、師匠に救われ、天地を動かし、鬼神を泣かせる術を身につけて戻ってこられたんだからな！」

「今度こそ、誓って言う。あの事件に関わった者たち全員に、千倍にして返してやる！」

……

数秒後、葉辰はようやく手を緩め、タクシーを拾って市の中心部へ向かった。

もう数秒遅ければ、後ろにいた通行人たちは無事では済まなかっただろう。

道中、過去の出来事が次々と浮かび上がり、葉辰は息が詰まりそうなほどの痛みを感じていた。

彼はもともと大家族に生まれ、衣食に困ることはなく、周りの人間から無能と呼ばれていたものの、三人家族で幸せに暮らしていた。

しかし5年前の雲湖山荘での集まりで！彼の運命は完全に変わってしまった！

父親が小さな女の子を助けようとして、高い地位にいる男の怒りを買ってしまったのだ！

男は激怒し！父親の顔を平手打ちし！さらには大勢の前で自らの手で父親を殺した！

その間、誰一人として止めようとする者はいなかった！

かつて葉家に取り入ろうとしていた家族たちも！

父親の昔からの友人たちも！

さらには彼が信頼していた叔父までも！

彼は狂気に駆られ、もがき苦しみ、その時はディナーナイフを手に取ってその男に突っ込んでいった！

しかし結局、その男の片手で止められてしまった！

彼はその男の冷淡な眼差しと、冷たい言葉をはっきりと覚えていた：

「江城の葉家なんて、何様のつもり？たとえお前が一流の家柄だろうと、俺様は片手で潰せる！それにお前この分をわきまえない小僧、ここじゃ有名な無能だって？ふん、俺を殺そうだと？100年経ってもお前が無能であることは変わらないぞ！」

誰もが予想もしなかったことに、その時一人の女性が突然駆け出し、全身の力を振り絞って少年を東銭湖へ突き落とした！

湖に落ちる瞬間、少年は母親があの男に向かって突っ込んでいくのを目の当たりにした！

死を覚悟した決意と共に。

葉辰は人生がここで終わると思っていたが、東銭湖の下流で一人の老人に救われた。

老人は彼を俗世から隔絶された場所へ連れて行き、無上の錬丹術を教え、「九天玄陽決」の修練を教えた。

この5年間、その神秘的な場所で葉辰に何が起こったのか、誰も知らない。

ただ、そこから突如として現れた悪魔、コードネーム吸血狂竜のことだけが知られている！

……

江城華美グループ。

葉辰は手の中のメモを見て、そして門の看板を確認し、間違いないと確認してから中に入った。

今回、彼は本来なら直接京城へ行って、あの雲湖山荘に現れた男を探すつもりだった。この5年間、彼が最も殺したいと思っていたのはこの男で、この男についての手がかりは、周りの人間が竜様と呼んでいること、京城の出身であること以外は何も分からなかった。

しかし出発直前に老人から、必ず先に江城へ行き、夏若雪という女性を探すように言われた。

老人はかつて江城を放浪した際、夏若雪の祖母と何らかの因縁があったらしく、葉辰は夏若雪が老人の孫娘ではないかとさえ疑っていた。

3日前、老人は天命を見抜く陣を運用し、夏若雪が100日以内に大きな災いに遭うことを発見し、その災いは彼女の命を奪う可能性が極めて高く、葉辰の運命こそが天道にも察知できない紫気臥竜格であるため、この災いを打破するには葉辰以外に方法がないのだと。

どのように打破するかについて、老人は一切語らず、ただ葉辰に一歩一歩進むように言っただけだった。

……

「止まれ！」

突然、冷たい声が響き渡った。葉辰の前に身長190センチはある屈強な男が二人立ちはだかった。二人とも警備員の制服を着て、肌は浅黒く、鋭い眼差しで、腕の筋肉が盛り上がり、非常に迫力があった。

葉辰は眉をひそめたが、このような警備員と争うつもりはなく、説明した：「こんにちは、夏若雪さんをお探ししています。」

警備員の一人が夏若雪の名前を聞いて、冷笑した：「お前が夏社長に会いたい？はっ、お前みたいなのが？アポは取ってあるのか？」

「いいえ」葉辰は正直に答えた。

「では華美グループの社員証は持っているのか？」

「それもありません」

ここまで聞いて、警備員の顔には更に高慢な表情が浮かび、さらに上から目線で葉辰を見下ろし、手で門を指さして、軽蔑した口調で言った：「どちらもないなら、あそこが門だ、出て行け！」

華美グループは華夏の500強の一つであり、さらに江城でも指折りの大企業として、華美グループの警備員として、当然ながら人より上だという意識があった。

彼らは誰の顔色も伺う必要はなく、このような部外者を追い払えばいいだけだった！

そのとき、スーツを着た数人の男たちがベンツのE200から降りてきて、まず受付で尋ねると、葉辰と同じように夏若雪を探しているようだった。結果は当然葉辰と同じで、数人は首を振り、数秒考えた後、最終的に脇のソファで待つことにした。

葉辰も目の前の二人の警備員と揉め事を起こすつもりはなく、ロビーのソファを指さして言った：「では、そこで少し待たせてもらいます。」

そう言って、彼はまっすぐソファに向かって歩き出した。

しかし数歩も進まないうちに、再びその二人の警備員に遮られた。

「おい小僧、耳が聞こえないのか？三度は言わせるな。あそこが門だ、出て行け！」警備員の一人が門を指さして威圧的に叫んだ。

葉辰は眉をひそめた。江城に来たばかりで、この二人を怒らせた覚えもないのに、なぜここまで意地悪をされなければならないのか？

その後、彼はスーツ姿の男たちを指さして尋ねた：「なぜ彼らは座って待てて、私はダメなんですか？」

警備員の一人が葉辰を頭からつま先まで舐めるように見て、嘲笑した：「お前みたいな田舎者が夏社長に会いたいだと？鏡を見て来い。さっさと出て行け。出て行かないなら、お前を放り出すぞ。」

葉辰は仕方なく首を振った。彼にはわかった。この二人の警備員は権力を笠に着て、明らかに自分のこの身なりでは座って待つ資格もないと言うのだ！

思いがけないことに、5年経っても、江城は相変わらずの江城だった！

「出て行かなかったらどうする？」葉辰の表情が暗くなった。

「出て行かない？死にたいのか！」

言葉が落ちると同時に、警備員の一人が葉辰の肩に手を置き、腕の筋肉が浮き出た！

彼は残忍な笑みを浮かべた。なぜなら、軽く力を入れるだけで、目の前のこの痩せた若者は3メートルは吹っ飛ぶはずだから！

つい先日も、同じように分をわきまえない田舎者が彼の権威に挑戦してきたが、結果的に片手で放り投げられ、今でも病院に入院している！

警備員が急に力を入れたが、葉辰はびくともしなかった！

次第に、警備員の笑みは凍りついた！顔には恐怖の色が浮かび始めた！

なぜなら、目の前の若者はまるで山のように！全く動かすことができない！

同時に、死の気配が腕から背中へと広がっていった！

彼の全身は汗でびっしょりになった！

もう一人の警備員は仲間の様子がおかしいことに気づき、笑って言った：「石頭、お前弱くなったな。真昼間からこんなに汗かいて、昨夜嫁さんに搾り取られたのか？俺がやってやろう。」

そう言って、彼も手を葉辰に向けて伸ばした。

「消えろ！人を殺したくない。」

突然、葉辰の冷たい声が轟く雷のように響き渡った！

同時に、彼が左足を軽く踏み出すと、周囲に気流が現れ、直接その二人の警備員に向かって突っ込んでいった！

二人は胸に強大な力が衝突するのを感じ、もはや耐えきれず、血を吐き出して吹き飛ばされた！

最後は体がロビーの強化ガラスに激しく衝突した！

「ドン！」

ガラス全体が轟音と共に崩れ落ちた！